HACCP時代の食品加工と微生物 -No.95-  アレルギー様食中毒(2) 東京水産大学食品生産学科教授 藤井建夫
アレルギー様食中毒は 細菌によって起こる食中毒
 アレルギー様食中毒は、鮮度の低下したマグロ、カツオ、サバなどの赤身魚やその加工品を食べたあと、30〜60分位 で、顔面、とくに口のまわりや耳たぶが紅潮し、頭痛、じんま疹、発熱などの症状を呈するもので、たいてい6〜10時間 で回復する。重症の場合には呼吸困難や意識不明になることもあるといわれる。  ところで、食中毒はふつう、細菌性食中毒、化学性食中毒、自然毒食中毒の3つに分類されるが、アレルギー様食中毒 はこのうちいずれに分類するのが適当であろうか。  細菌性食中毒とは、これまで度々取り上げてきたサルモネラや腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌、病原大腸菌O-157などに よるもので、これらの細菌が食品中で増殖または毒素を生成した食品を食べることによって起こるものである。 毎年わが国の食中毒件数、患者数の大部分を占めている。最近はウイルスや原虫による事例が見られるようになった ため、細菌性食中毒といわず、微生物性食中毒ということが多くなっている。  化学性食中毒とは食品やその原料に本来含まれていないはずの有害化学物質の汚染、混入、生成などによって発生する 中毒で、重金属(水銀、ヒ素、カドミウムなど)やカビ毒の汚染、不純食品添加物の混入、農薬の誤飲、油脂の変敗など によって起こる食中毒である。  また自然毒食中毒とは、フグ毒、貝毒、キノコ毒などによるもので、細菌性食中毒に比べると、件数や患者数はそ れほど高くないが、致命率の高いものがあるので重要である。  アレルギー様食中毒は原因物質がヒスタミンであるため、わが国の統計では化学性食中毒に分類されている。しかし、 ヒスタミンはヒスチジン脱炭酸酵素を有する細菌の作用で、魚肉中の遊離ヒスチジンから生成される(図1)もので、 これが魚肉中に多量に蓄積されると中毒の原因となる。したがって、PCBや農薬、水銀などによる化学性食中毒とは性格 を異にし、この食中毒は細菌性食中毒と考えてもよかろう。とくに防止対策の面からは微生物由来であることをきっちと 理解すべきであろう。
海にもいるヒスタミン生成菌
 ヒスタミン生成菌はどこにいるのだろうか。  これまで、魚やその加工品のアレルギー様食中毒の原因と考えられている最も代表 的なヒスタミン生成菌はモルガン菌(Morganella morganii)である。その他にも 数種が知られているが、それらはいずれも陸生の細菌(腸内細菌)である。しかし、 あまり知られていないが、海にも中温性と低温性の2種の好塩性ヒスタミン生成菌(とも にPhotobacterium属)が存在する。したがって魚のヒスタミン生成菌としては、モル ガン菌のほかこれらの好塩菌についても考慮する必要がある。前者は漁獲後に付着し た二次汚染菌、後者はもともと鮮魚の付着菌である一次汚染菌と考えられる。  このうち、中温好塩性のヒスタミン生成菌はモルガン菌と同程度に強いヒスタミン 生成能を持つので、過去の食中毒事例の中には本菌によるものも含まれていた可能性 がある。これまで食中毒事例から本菌の分離例がないのは、腸炎ビブリオの場合と同 様、本菌が食塩無添加培地では増殖できないことと、冷凍に弱いので凍結サンプルで は死滅してしまうためであろう。  一方、低温好塩性のヒスタミン生成菌は至適温度が20℃付近にあり、10℃以下でも 増殖可能であるため、低温流通が主流の鮮魚介類では食品衛生上注意すべき細菌であ るといえる。これまで冷蔵中の水産物でもヒスタミンが生成することが知られている が、その理由は不明なことが多かった。このヒスタミン生成菌は5℃貯蔵の魚肉中に 多量(19〜144mg/100g)のヒスタミンを産生することが確認されているので、本 菌が原因である可能性が高い。ただし、この菌も好塩性で、凍結には弱いので、実際 の食中毒事例から検出されにくかったものと思われる。

さまざまに変化する 魚肉貯蔵中のヒスタミン量
 図2は数種の赤身魚を5、20、35℃に貯蔵した際のヒスタミン量の変化を調べた例で ある。この結果から、赤身魚におけるヒスタミン蓄積について、(1)魚種(または試 料)ごとに蓄積量や傾向が異なり、(2)35℃がもっとも著しい場合と、20℃の方が35℃ よりも著しい場合がある、(3)35℃でもまったく蓄積しないことがある、(4)5℃にお いても5日以内に100mg/100g程度認めうることがある、(5)いったん蓄積したヒスタミ ンが減少する場合がある、(6)多くの例で血合肉よりも普通肉での蓄積が多いことな どがわかる。 このような差異が見られる原因については次号で考えたい、