2002年9月25日日本食品新聞掲載より HACCP時代の食品加工と微生物 -No.88-  食品関連企業における微生物検査の意義(4) 東京水産大学食品生産学科教授 藤井建夫
●図&表は赤をプッシュ
小型球形ウイルスが増加の最近の食中毒
 図1は最近の食中毒発生状況(事件数と患者数の変化)を示したものである。この
図からは大まかに次のような傾向が読みとれよう。@1995年を境としてその前後で食
中毒の発生傾向に大きな違いがあり、1995年までは年間の事件数はやや減少傾向がみ
られる。A患者数は減少傾向が認められるわけではない。Bしたがって1件当たりの
患者数はむしろ増加している。C1995年までは腸炎ビブリオ、サルモネラ、ブドウ球
菌がトップ3を占めていた。D1996年以降は腸炎ビブリオ、サルモネラ、カンピロバ
クターを中心に食中毒発生件数の急増が認められる。E1999〜2000年以降は腸炎ビブ
リオ、サルモネラの発生件数・患者数が減少してきた。Fそれに代わり、小型球形ウ
イルスが増加、2001年には患者数でトップになった。G患者数にみられる1996年およ
び2000年の大きなピークは、それぞれ堺市のO157事件および雪印乳業事件によるもの
であり、これからもこれらの事件がいかに大きなものであったかが分かる。
 2000年の統計をもとに原因食品別の発生状況(2人以上の事例、表1)を見ると、件
数では魚介類が159件(原因判明数905件の17.6%)、次いで複合調理食品が85件
(16.9%)、野菜およびその加工品(6.1%)の順で多く、患者数では雪印事件のため、
乳類およびその加工品が13,462人(31.8%)と圧倒的で、次いで複合調理食品が3,550
人(8.4%)、魚介類加工品(2,841人、6.7%)、卵類およびその加工品(1,042、
5.3%)であった。
 同年の原因微生物別の発生件数(表2)(2人以上の事例、1,163件、40,210
人のうち)では、サルモネラ302件(24.4%)、腸炎ビブリオ260件(21.0%)、小型
球形ウイルス242件(19.5%)、カンピロバクター95件(7.7%)の順に多い。患者数
ではトップがブドウ球菌の14,714人(34.8%)であるが、これは加工乳による食中毒の
ため。次いで小型球形ウイルス(8,077人、19.1%)、サルモネラ(11,392人、35.5%)
、腸炎ビブリオ(3,458人、8.2%)の順であった。
 
食中毒の発症菌量は菌によって大きく違う
 表3は主な食中毒細菌の発症菌量と許容菌量をまとめたものである。これからも分か
るように食中毒の発症菌量は菌種によって大きく異なる。これまで伝染病として扱われて
きた赤痢菌の発症菌量は少なくふつう101〜102といわれる。O157もこれに近い菌量で発症
し、感染力の強い菌種である。その他の菌種で発症菌量にかなり幅のあるものがみられるが、
これは菌株やその生理状態などによって病原性の強さが異なることや、ヒトの感受性にも年齢
や健康状態によって差があるためである。例えば腸炎ビブリオでは、海水や鮮魚からの分離株
はほとんどが非病原性(耐熱性溶血毒マイナス)であるが、患者からの分離株はほとんどが病
原性である。またO157は老人や乳・幼児での発症率が高い。したがって食品の利用者によって
も許容菌量は違ってくる。

食品検査における品質指標と安全性指標
 これまで4回にわたって述べてきたことから分かるように、一つの指標菌で品質と
安全性を同時に評価することはできない。一般生菌数、食中毒菌、汚染指標菌を調べ
ることの意義を理解して、検査の目的にあった指標菌を選ぶことが重要であり、必要
に応じて数種の指標菌を組み合わせた評価も可能であろう。例えば食肉製品の微生物
規格では、表4のように大腸菌群、E.  coli、クロストリジウム属、黄色ブドウ球菌、
サルモネラ属菌の5種類を組み合わせた微生物規格が適用されている。ここで、大腸
菌群は包装後加熱製品で、63℃30分またはこれと同等以上の加熱殺菌が行われたこと
の指標、E. coliは製造時における糞便汚染の指標、クロストリジウム属は加熱後の
適正冷却の指標、黄色ブドウ球菌は製造時における手指や器具からの汚染の指標、サ
ルモネラ属は食肉製品に関連の深い食中毒菌の指標として評価に用いられる。
準備中