HACCP時代の食品加工と微生物
米飯類(1)

東京水産大学食品生産学科教授 藤井建夫

急成長の中食産業
 私たちの食事は長い間、家庭内で主に母親が調理した料理を家族が一緒にとるというスタイルが一般的であった。これに対して食堂やレストランなどでの食事を外食というが、最近はこの中間の、出来合いの惣菜やご飯類を買ってきて、そのまままたは少し手を加えて家庭で食べる、いわゆる中食の頻度が増大している。そのため、中食市場の規模も1994年4兆9,905億円、1996年5兆2,309億円、1998年5兆7,756億円というように年々数%ずつ増加している。
 この背景には次のような社会構造や生活様式の変化が挙げられる。女性の社会進出、単身生活者や一人暮らし老人の増加、家族の生活時間のずれ(子供の熟通いなど)による食事形態の変化、また不景気(家計収入の減少)による外食の減少などのため需要が増大し、供給体制の方もそれを受けて、コンビニ、スーパーなどが普及し、品揃えが豊富になってきたことなどである。
 学生たちの昼食を見ても、生協の食堂の利用者よりも、近くの弁当屋やコンビニから好みのものを買ってくる者が多くなっている。多少買いにいく手間がかかっても、食べたいものを食べたいだけ選べる中食の方が学生にはありがたいのである。生協でもそのような学生の要望に対応して、これまでの定食型メニューから好みの単品を選べる方式にしたり、弁当や惣菜の販売も並行して行うようになってきた。

中食市場の3割を占める米飯類
 年間5兆円を超える中食市場規模のうち、3割強を占める2兆1,000〜2兆2,000億円が米飯類である。今回はこの米飯類を取り上げる。
 米飯類は炊飯直後に販売し、賞味期限12〜36時間前後の日配米飯類(おにぎり、弁当、すし、丼物、配達給食弁当など)と、6カ月以上保存の効く加工米飯類(レトルト米飯、無菌化包装米飯、冷凍米飯、チルド米飯、缶詰米飯、乾燥米飯など)に分けられる。市場規模は前者が約95%を占める。
表1 加工米飯の種類別生産量
種  類
1992年
1997年
レトルト米飯
無菌化包装米飯
冷凍米飯
チルド米
缶詰米飯
乾燥米飯
合  計
21,422
7,316
114,250
2,868
1,854
3,887
151,597
21,190
27,214
141,520
5,217
1,586
4,554
201,281
 このうち加工米飯の種類別生産量は表1の通りで、冷凍米飯が70%を占め、ついで無菌化包装米飯が14%、レトルト米飯が11%である。最近の傾向を見ると無菌化包装米飯が前年比で約45%の伸びを示しているが、その他はほぼ横ばいである。
 加工米飯の70%を占める冷凍米飯の80%弱は炊き込みご飯、ピラフなどの混ぜ飯類、20%が焼きおにぎり類であるが、これらの製品は流通が比較的容易であり、品質の均一化、大量生産、自動化がしやすいなどの特徴がある。
 一方、日配米飯類はスーパーやコンビニで売られている米飯類である。米飯の老化を防ぐためには流通温度を18℃以下にすることができないので腐敗変敗しやすく、毎日1〜3回に分けて配送され、大量生産、自動化しにくいものが多い。

バチルスが基本的な腐敗菌
 ご飯は水分、栄養とも多いので細菌の増殖しやすい食品である。炊いたご飯をそのままおいておくと、やがてすえた臭いがして腐ってくるが、その腐敗の様相は単純で、関係する菌群も限られる。その理由は、(1)米飯の主成分がデンプンであること、(2)炊飯後に生残する細菌は少数のBacillus胞子に限られること、(3)嫌気状態におかれることが少ないため通常は嫌気性菌の活動を考慮する必要がないことなどである。
表2 米飯の変敗と原因菌
変敗の型
菌  種
すえた臭気をを与え
酸性化させるもの
B.sublilis, B.megaterium, B.cereus,
B.mycoides, B.polymyw, B.circulans, B.alvei
アルカリ性にするものB.pumilus, B.cereusの特異株
米飯を変敗させないものB.laterosporus, B.brevis
 表2に米飯変敗の型と関係する主要菌種を示した。
 これら変敗原因となるBacillus胞子は多くが原料米に由来するので、日持ちをよくするにはその汚染の少ない原料米を使用することが重要である。原料玄米にはふつう106(1g当たり)程度の細菌が付着している。
表3 米の発芽率と耐熱性菌数
原 料 米
発芽率
総菌数
耐熱性菌数
古米(中田もち)
古米(秋田おとめもち)
古米(中之島コガネモチ)
新米(長沢コガネモチ)
古米(秋田コガネモチ)
43%
83%
7%
89%
2%
7600
2400
690
3000
1200
50
0
160
0
730
新米の頃はPseudomonasやMicrococcusが大部分であるが、菌相は貯蔵中に変化してゆき、翌年の梅雨期にはBacillusが優占するようになる。Bacillusの占める割合は貯蔵条件(温度など)によって大きく左右されるので、貯蔵状態の良否を確認するために玄米の発芽率が調べられている。表3に示すように、発芽率が80%以上の米はBacillusが少なく、50%以下では汚染率が高い。
図1 米の精白と菌数の変化
 またBacillusはおもに玄米の表皮に付着しているので、精白の程度によっても菌数は異なり、Bacillusは精白率89%以下で激減する(図1)。
 炊飯直後の米飯中のBacillusの胞子数は1gあたり102〜103程度で、夏季には10数時間で107〜108に達し、腐敗にいたる。最近の米飯では初発菌数が300以下の例も多いが、それを30℃においた場合の菌数は、24時間後で104〜105、48時間後で106〜107になる。
 米飯の変敗には炊飯後に空気中や器具から混入する二次汚染菌の影響も考えられるが、むしろ釜に付着して生残していたBacillus胞子が変敗原因菌として重要であるといわれている。