HACCP時代の食品加工と微生物 -No.97- 食品衛生監視員採用試験問題より(1) 東京水産大学食品生産学科教授 藤井建夫
(日本食品新聞2003年6月25日号掲載)
 今回は、この6月に行われた東京都特別区採用試験問題(衛生監視(衛生)専門問題)より、
食品微生物に関する問題を選んで、紹介したい。専門問題はIとII(解答時間は各90分)があり、
それぞれ5題の中から3題を選んで解答することになっている。なお、この5題の問題は、さらに、
テーマの異なる(例えば、魚肉の鮮度判定の問題と、遺伝子組み替え食品に関する問題)2または
3題の問題に分かれており、受験者はこの両方を解答しなければならないので、幅広い知識が必要
となる。問題は全体に基本的な事項についてのものが多く、質問もオーソドックスであるので、各事
項のポイントを正確に整理して理解していることが重要と思われる。

専門T-問題5
次の問(1)〜(3)に答えよ。
(1)サルモネラ食中毒に関する次の問@〜Cに答えよ。
 @ サルモネラ属菌の細菌学的特徴について説明せよ。
 A サルモネラ食中毒の潜伏期間及び主な症状を説明せよ。
 B 鶏卵へのサルモネラ汚染経路について説明せよ。
 C 鶏卵によるサルモネラ食中毒の予防対策を四つ説明せよ。
(2)水分活性に関する次の問@、Aに答えよ。
 @ 水分活性について説明せよ。
 A 食品の水分活性と微生物の増殖との関係について説明せよ。
(3)は有毒植物の種類を問うものなので省略。

解説
(1)サルモネラは家畜の腸管内に広く分布しているグラム陰性、運動性、通性嫌気
性の桿菌で、血清型により約2000種に分けられている。増殖域は5〜46℃, pH4.5
〜8.0。従来サルモネラ食中毒の原因菌はネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)
によるものが主流であったが、1987年以降、ゲルトネル菌(S. Enteritidis、SE)に
よるものが急増している。
 サルモネラ食中毒の潜伏期は12〜24時間で、主要症状は急激な発熱、頭痛などの全
身症状と、嘔吐、下痢、腹痛などである。一般に1週間以内に回復し、死亡すること
は少ない。
 現在急増しているSE食中毒の原因食品は、SE汚染鶏卵やそれを使用した自家製マヨ
ネーズ、ババロア、タマゴサンドイッチ、オムレツ、とろろ汁、卵納豆など。鶏卵
のSE汚染原因は、採卵鶏の卵巣内や腸管内がSE汚染されているためで、産卵時にSEが
卵内に排菌されたり、腸管内のSEが卵を汚染し、さらに養鶏場内が糞便中のSEで汚染
されているためである。
 予防対策としては、このようなSE汚染のない鶏卵の供給、飼育環境や餌、水などか
らの感染防止、ニワトリの免疫力強化、出荷後の鶏卵の衛生対策、食品の製造・貯蔵
中の増殖防止(低温保存)や殺菌(60℃、20分程度の加熱)があげられる。
(2)微生物の増殖には水が必要である。食品中の水は、タンパク質や糖類などの食
品成分に束縛されている結合水と、そうでない自由水の二つの形態に分けられるが、
微生物が利用できるのは自由水であり、この量が少なくなると増殖が抑制される。乾
燥も塩蔵や糖蔵も、方法は全く異なるが、微生物の水利用性という観点からは水分活
性(Aw)という考え方で統一的に説明することができる。
 食品(食品も水に食塩、糖、アミノ酸などが溶けている溶液と考える)の水蒸気圧
をp、純水の水蒸気圧をpoとすると、その食品の水分活性は、Aw=p/poで示すことが
できる。pが純水の場合p=poであるのでAw=1であり、完全無水の食品ではp=0であ
るので、Awも0となる。
 微生物が増殖できる最低水分活性の値は、大まかに一般細菌では0.90、酵母で
は0.88、かびでは0.80といわれる。好塩細菌や耐乾性かび、耐浸透圧性酵母などはもっ
と低い水分活性でも増殖できるが、0.60以下になるとあらゆる微生物は増殖できなく
なる。食中毒細菌の多くは0.93〜0.95が増殖できる水分活性の下限であるが、黄色ブ
ドウ球菌は0.86まで増殖可能である。

専門A-問題3
次の問(1)、(2)に答えよ。
(1)魚肉の鮮度の判定指標に関する次の?、?について説明せよ。
 ?揮発性塩基窒素(VBN)
 ?K値
(2)は農作物の遺伝子組み替え技法と安全性評価についての出題であるので省略。

解説
(1)この解答では、魚肉の自己消化酵素による鮮度低下と、細菌による鮮度低下の
違いを正しく理解しているかどうかがポイントとなる。K値は活きの良さの指標、揮
発性塩基窒素は腐敗の指標である。 
 ?の揮発性塩基窒素とは食品の抽出液をアルカリ性にしたときに揮発する窒素化合
物の総称で、主な成分は、魚ではアンモニアとトリメチルアミン、その他一般の食品
ではアンモニアである。食品の腐敗の指標として用いられる。食品成分や微生物フロー
ラによっても異なるが、一般にこの値が30mg/100gに達したころが腐敗時期と一致
することが多い。
 AのK値は魚類の活きの良さを示す生鮮度指標として用いらる。
 魚肉のATPは酵素的に分解されて、ATP?ADP?AMP(アデニル酸)⇒IMP(イノシン
酸)⇒HxR(イノシン)⇒Hx(ヒポキサンチン)という順に変化していく。この分解
の経路はすべての魚で同じであり、一連の反応はIMPの分解速度で左右される(律速
される)。したがってATPからIMPまでが魚肉中の主成分である間は生鮮度が良好であ
るが、時間経過とともにHxR、Hxが増加すると生鮮度は低下したことになる。
これらのATP関連化合物の総量はほぼ一定であることから、次式のようにこの総量に
占めるHxR+Hxの百分率を求め、これをK値と呼んでいる。
   K値(モル%)=(HxR+Hx)x100/(ATP+ADP+AMP+IMP+HxR+Hx)
 K値は低いほど生鮮度の良いことを意味し、即殺魚では10%以下、刺身用には20%
以下が適当であり、20〜60%は調理加工向けの鮮度とされている。

専門V-問題4
次の問(1)、(2)に答えよ。
(1)は食品添加物(漂白剤)に関するものなので略。
(2)牛乳の殺菌方法を三つ挙げ、それぞれの殺菌温度、時間及び特徴について説明せよ。

解説
 牛乳の殺菌方法は表のように要約できる。

 
 以上の問題の多くはこれまでに本紙で触れてきたところである。VBNとK値、水分活性については、 本紙の記事をもとにまとめた拙著『微生物制御の基礎知識』(中央法規出版)に詳しい解説がある。 また近著『食品微生物標準問題集』(幸書房)でも牛乳の殺菌方法(p.107)やK値(p.79)、VBN(p.21)、 水分活性(p.16)、サルモネラ食中毒(p.50,55)に関連の出題と解説があるので、ぜひ参照していただきたい。