HACCP時代の食品加工と微生物  アレルギー様食中毒(1) 東京水産大学食品生産学科教授 藤井建夫  
おそらく多発しているアレルギー様食中毒
 わが国の食中毒は医師から保健所に届け出があったものが統計に現れるため、実際 の発生件数や患者数は、食中毒の種類にもよるが統計上の数字よりかなり多いと考え られる。今回紹介するアレルギー様食中毒は、あとで触れるように症状が比較的軽く、 短時間で治ってしまうことが多いので、届け出がないまま終わってしまうケースが結 構多いと思われる。この食中毒は実際には家庭でも結構発生していると思われるが、 表1、表2に平成元年以降の発生状況(平成10年以降は東京都での発生事例)を示 すように、食中毒事例の多くは、学校や職場、飲食店などで同時に多くの人が発症した 場合であり、家庭での報告事例はほとんどない。  アレルギー様食中毒は、海外でも以前からマヒマヒやツナ缶詰などによるものがた まに発生していたが、最近はEPAやDHAの効果を期待した魚食志向を反映して逆に増加 傾向にあり、たとえば米国での水産物に由来する健康危害の報告例をみると、アレル ギー様食中毒の報告患者数は年間約800名、推定患者数は8,000名で、関心の高い食中毒
となっている。

社員食堂での最近の事例
 この2月末に東京都で発生した事例は次のようである(朝日新聞より)。 「東京都食品監視課は27日、江東区豊洲1丁目のコンピューターソフト会社Nの社員 食堂で、メカジキの照り焼きを食べた社員31人が相次いで顔面発疹などの症状を訴え、 13人が入院したと発表した。同課では、魚介類が冷凍、解凍をを繰り返して腐敗した 時に生じるヒスタミンによる食中毒の疑いがある、と見て調査している。  31人のうち、男性は28人、女性3人。うち3人は呼吸困難などの症状もあったが、ほ とんど軽症だった。」  この社員食堂は外部の給食業者が営業しているもので、2月27日の昼食には73食の メカジキの照り焼きが提供されており、その他の副菜やご飯、味噌汁は各自で選ぶ方 式になっている。給食業者の話によると、原料のメカジキは2002年に太平洋で漁獲さ れた冷凍品を、納入業者(切り身業者)が24日午後に一人分ずつ(120g)に切り、再 び凍結したものを受け取り、冷蔵庫で保存し、26日午後3時から醤油漬け(冷蔵庫中) にして、当日朝にオーブンで加熱調理されている。  検査の結果、原料(生カジキ)からヒスタミンが670mg/100g検出され、照り焼き3 検体からも44, 750, 760mg/100gのヒスタミンが検出されたため、メカジキの照り焼 きによるアレルギー様食中毒と断定された。  なお、最終的な患者数は32名、内訳は男性28名(24〜58歳)、女性4名(23〜37歳) で、入院患者数は16名(男性13名、女性3名)、発症時間は27日午後0時30分から2時 頃まで、主な症状は顔面発疹、動悸、呼吸困難であった。
 

赤身魚で起こりやすい食中毒
 表1、表2の原因食品からも分かるように、本食中毒はほとんどがマグロ、カジキ マグロ、カツオ、サンマ、イワシ、ブリなどの赤身魚やその加工品で起こっている。 この食中毒の原因物質はヒスタミンである。しかし、赤身魚が本食中毒の原因となり やすいのは、もともと赤身魚にヒスタミンが多いわけではなく、ヒスタミンの前駆物 質となる遊離ヒスチジン含量が白身魚では数mg〜数十mg/100gであるのに対し、赤身 魚では700〜1,800mg/100gと非常に高いためである。  ヒスチジンはアミノ酸の1種で、その含量が多いこと自体は健康上まったく問題が ないが、これにヒスチジン脱炭酸酵素を持った細菌(ヒスタミン生成菌)が作用する とヒスタミンが生成して食中毒の原因になる。しかも、赤身魚肉のpHは5.5〜6.0で、 この脱炭酸作用の至適pH5〜6に近いのでヒスタミンを生成しやすい。  魚がこの食中毒の原因となるためには、(1)遊離のヒスチジンが多量に存在するこ と、(2)ヒスタミン生成菌が付着していること、(3)ヒスタミン生成菌が増殖してヒス タミンを生成すること、が必要である。  食中毒を起こすヒスタミン量は一般的には100mg/100g以上といわれるが、実際に は摂取量が問題であり、食中毒事例から発症者のヒスタミン摂取量を計算した例では 大人1人当たり22〜320mgと報告されている。
続きは4月29日予定