HACCP時代の食品加工と微生物  食品衛生監視員採用試験問題より(2) 東京水産大学食品生産学科教授 藤井建夫
今回は東京都の食品衛生監視員採用試験問題を見てみたい(前回は東京都23区の試験問題)。 専門問題は専門 Iと専門 Uに分かれており、それぞれ[食ー1]から[食ー5]の5題から3題を選択 して答えるようになっている。以下ではそのうち微生物に関する問題を取り上げる。 専門 T[食ー2]の問題   微生物の生育に関する次の問い(1)、(2)に答えよ。 (1)微生物の生育の測定方法を2つあげ、それぞれについて説明せよ。 (2)食中毒起因菌における胞子形成の意義について説明せよ。 解説 (1)微生物の生育測定方法によく用いられる方法には、寒天培地を用いる生菌数測定と液体培地を    用いる方法がある。    前者は、まず試料の一定量(例えば25g)を採取し、その9倍量の希釈水(一般的には生理食塩水)    とともにストマッカーで食品中から菌を抽出して試料原液を調整する。次にその10倍希釈液列を調整し、    その1mlずつをシャーレに入れる。これにあらかじめ溶解し、45℃に保温しておいた寒天培地約15〜20ml ずつを加え、試料希釈液とよく混和する。寒天 が固まった後、このシャーレを裏返しにして培養し、生 じたコロニー数を計測し、希釈倍率から元の菌数を算出する。このような方法を混和法(または混釈法)と いう。また、あらかじめ固めておいた寒天平板に試料希釈液0.1?を置き、これをコンラジ棒で平板上に拡げ て培養する方法(塗沫法)もよく用いられる。   液体培地を用いる方法はMPN法(最確数法)と呼ばれる。5本もしくは3本の培養試験管にそれぞれ段階 希釈試料を接種し、増殖してくる試験管の本数から確率的に菌数を推定するもので、海水中の大腸菌群の測定 などに用いられている。   液体培地を用いる方法には吸光度を測定する方法もある。微生物の増殖による濁りを分光光度計で測定する 方法である。相対的な増殖の程度を比較的簡単な操作で測定できる利点がある。あらかじめ吸光度と菌数の関係 から標準曲線を作成しておくことで、菌数を求めることもできる。 カビなどでは、培養液をフィルターで濾過し、その重量を測定して増殖を調べる方法も用いられる。そのほか、 顕微鏡で直接微生物数を計数したり、コールターカウンターで菌数を測定する方法もある。 (2)胞子を形成する食中毒菌には嫌気性菌のボツリヌス菌、ウェルシュ菌、好気性菌のセレウス菌がる。胞子は 耐熱性が強いため、加熱食品でも生き残って食中毒原因となる。また、ウェルシュ菌のエンテロトキシンは胞子 殻の構成タンパクで、ウェルシュ菌が小腸管内で増殖し、胞子を形成する際に過剰に産生されたものである。 専門T[食ー3]    微生物に起因する食品の変質の防止法を3つあげ、それぞれについて説明せよ。 解説    腐敗または発カビの防止法をあげればよい。その方法は次のふたつに大別できる。   @食品中の微生物を殺菌し、その後の外部からの微生物の汚染を密封容器(包装)によって防ぐ。液体の場合には、    殺菌せずに、ろ過などによって除菌することも可能である。缶詰やレトルト食品、魚肉ソーセージなどの食品が    これに該当する。   A食品の貯蔵温度や塩分、水分、pH、気相などを微生物の増殖に不適当な条件にすることによって、食品中の微生物    の増殖を抑制する。この例としては、冷凍食品や塩蔵品、干物、酢漬けなどがある。    これらの例から3つを選んで解答すればよい、 専門U[食ー2]の問題    黄色ブドウ球菌について説明せよ。 解説    黄色ブドウ球菌食中毒の主な特徴は次のとおりである。   1)グラム陽性球菌で、毒素型食中毒菌である。   2)ヒトの皮膚、鼻腔、咽頭などに棲息し、化膿性疾患の起因菌となっている。   3)摂食後、発症までの潜伏時間は短く、1〜6時間、平均3時間前後である。   4)食中毒はブドウ球菌の産生するエンテロトキシンによって起こる。   5)エンテロトキシン耐熱性が強く、120℃、20分の加熱でも完全に破壊されない。   6)主な症状は悪心、嘔吐である。   7)原因食品は、直接ヒトの手が触れてつくられ、しかも長時間室温に放置されるよ     うな折詰弁当、おにぎりなどが多い。 専門U[食ー3]の問題    わが国の食品工業において、食品や容器包装の殺菌に使用されている加熱殺菌以外    の殺菌方法を2つあげ、それぞれの主な実用例及び特徴について説明せよ。 解説    非加熱殺菌の代表的な例として、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、オゾン、エタノール、紫外線などが    あげられる。次亜塩素酸ナトリウムは水道水、野菜、食品製造用器具、包材などの殺菌に用いられる。次亜塩    素酸ナトリウムは酸性では効果が大きいが、pH9以上では解離し、ほとんど効果がない。またタンパクなどと    反応すると効果がなくなるので、洗浄などにより対象物の有機物を除いておく必要がある。    過酸化水素は紫外線や熱と併用して包材の殺菌に用いられる。     紫外線は食品(かまぼこ、うどんなど)の表面殺菌、包装材料の殺菌、水、空中浮遊細菌の殺菌などに利用    されている。殺菌効果は照射表面に限られる欠点があるが、食品の品質への影響はほとんどない。    オゾンは工場の空気の殺菌に用いられる。またオゾン水は安価で使用方法が簡単であり、食品に残留しないため、    野菜、果実、麺類、豆腐などの殺菌に利用されている。エタノールは直接食品に添加して用いられるほか、噴霧    して器材の殺菌や、包装内部で蒸散させて菓子のカビ防止などに用いられる。エチレンオキシドも食品包材の殺菌    に一部用いられている。 専門U[食ー5]の問題    次の語句について説明せよ。   (1)レジオネラ症   (2)PCR法   (3)リスクコミュニケーション 解説   (1)レジオネラは好気性グラム陰性桿菌、在郷軍人病(重症肺炎)の原因菌に対して設けられた新属である。    L-システインなどのアミノ酸要求生があり、通常の検査培地には増殖しない。人工培地ではpH6.8付近でしか増殖    しない。土壌中に生息し、空調用冷却塔水などで増殖し、ここから飛散したエアロゾルによって感染すると考えられ    ている。わが国では近年入浴施設での集団感染が相次いで起きている。   (2)遺伝子の特定部分を、プライマーとDNAポリメラーゼを用いて、短時間に増幅(大量合成)する方法である。    これを応用して食中毒菌などの迅速検出が広く行われるようになった。たとえば、ボツリヌス菌だけが持っている毒素    遺伝子をPCRで増幅し、検出することで、ボツリヌス菌の存在が確認できる。   (3)これまでHACCPにおける危害分析では危害の定性的な分析がおこなわれてきた。    これに対し、リスクを定量的な観点から体系的に評価し、ハザードコントロールを効果的に行おうとする考え方がリスク    アナリシス(Risk analysis)である。リスクコミュニケーションは、リスクアセスメント(リスクを科学的に評価、推定    する作業)、リスク管理(リスクアセスメントの結果を受け、リスク対策やその目標値を設定する    こと)と共にリスクアナリシスの構成要素で、消費者や関係者との情報交換をいう。