加工食品素材の選定条件
             元東京水産大学学長 天野慶之
 食品加工あるいはその貯蔵は、もともと一次生産者、つまり農業者、漁業者自身がおこなっていたとするのが、私のかねてからの見方である。従って、以下はその前提での話しであるから、これを認めない立場の人(それは、いまの社会にはゴマンといると思うので)は、次は読まないで欲しい。
持味を生かす心得
 もともと、加工をはじめた人たちは、その原材料をよく承知しており、その物性なり持味をどう活かすか心得ていたから、素材について苦労することはなかったと推定できる。味醂干しは、例えば銚子近辺でイワシが大量に水揚げされると、〆粕にして魚油を作るのが常道であったが、一部、小型のイワシは開いて、調味液につけ、干したり、その途中で、ゴマやケシの実を撒ったりして干しあげるわけであつたから、原料魚の目利きは加工業者(漁業者を兼ねていたもの)が自分で出来た筈である。
 大豆の加工は味噌、醤油が第一に念頭に浮かぶが、豆腐製造の原料もまた大豆である。この品種は多種類あって、(北緯とか南緯)一度違っても、同じ品種の移動移殖は難しいとされる。つまり地域ごとに何種類か特定の品種が豆腐原料として限定されることになる。少数ではあるが、こうした原料を使って、一丁500円もする豆腐をつくっている者もいる。

自分の考えで原材料が選べない
 ハッキリしているのは、こうした状況で食品加工を営める人達は、いまの日本にいたとしてもそれは少数に限られ、大多数の業者は好むと好まざるにかかわらず、自分の考えで、原材料を選べない実情にある。私の知り合いに、インド料理をはじめ製パンなど大きな工場を切盛りしている男がいるが、この前合った時、タイ、ヒリッピン、インドネシアンとアサリ(貝)を探し歩いて疲れたという。スパケ゜ティにボンゴレと称して、アサリを貝殻ごと入れるのがあるが、そのアサリの日本産(例えば有明海)がもはや入手できないというのが、東南アジア探索となったというのである。
(japanfoodnews掲載資料より)