日本食品新聞(連載中)・6月25日号より HACCP時代の食品加工と微生物 -No.85-  食品関連企業における微生物検査の意義(1) 東京水産大学食品生産学科教授 藤井建夫
 これまで何度か述べてきたように、近年食品の安全性や微生物制御に関する関心 が急速に高まっており、食品の製造や流通関係の企業や団体ではそれに伴って微生物 検査の頻度や重要性も増している。会社の体制によって、検査を自社で行う場合と外 注(依頼分析)による場合があるが、いずれにせよ、食品の検査ではその目的にあった 方法を用い、得られた結果を正しく評価することが重要であり、そうでないと検査の意味 がないだけでなく、時には不本意な結果を招くことにもなる。 しかし実際に微生物検査 を担当したり、その結果を利用している人たちから話を聞いてみると、ただ単にマニュアル 通りに検査をして結果を報告しているだけであったり、検査の目的をあまり気にしていない と思われるような場合がある。そこでこれから数回にわたり微生物検査の目的、意義、留意点 などについて述べておきたい。 なぜ微生物検査を行うのか --その目的・法的根拠-- 食品企業や検査機関などで日常的に行われている微生物検査は、主に次のような 目的や法的根拠によって行われる場合がほとんどであろう。 (1)食品衛生法第4条  食品衛生法第4条では、病原微生物により汚染され、人の健康をそこなう恐れの ある食品の製造、加工、販売等を禁じており、この条項はすべての食品に当てはま る。したがって、食品メーカや流通関係者は製造・取り扱い製品の自主管理のために、 また行政当局は食品衛生上の監視指導のために、それぞれ必要な微生物検査を行うこととなる。
(2)食衛法に基づく食品の規格・基準 表1および表2に示した一般食品と乳・乳製品については食品衛生法第7条に基 づく「食品、添加物等の規格基準」ならびに「乳及び乳製品の成分規格等に関する 「省令(乳等省令)」により食品の規格基準が定められているので、該当する食品では  その基準をクリアーする必要がある。 (3)衛生規範  食衛法に基づく規格・基準による規制になじまない食品で、しかも過去に食中毒 や腐敗・変敗事例などが多い食品について、衛生の確保と向上を図るために、弁当・ そうざい、漬物、洋生菓子、セントラルキッチン・カミサリーシステム、生めん類、 すし類についての衛生規範(表3)が定められている。 (4)地方自治体による指導基準  食衛法に基づく規格・基準のない食品に対して、監視指導の効率化や、営業者の 自主管理強化、衛生上の安全性確保等のために、自治体によっては独自に指導基準を 設定している。 (5)HACCPとの関連 HACCPにおける微生物危害防止のためのCCP監視(モニタリング)では、結果の出 るまでに時間のかかる微生物検査は用いられず、リアルタイム的に監視の可能な時間 ・温度などの測定が中心となる。ただしHACCPシステムの組み立てやその導入後に行わ れる検証には必要に応じて微生物検査も必要である。
(6)食中毒や変敗事例の原因究明 食中毒事故の原因究明や様々な変敗事例・クレームなどの原因解明のために行政 機関やメーカの立場から微生物検査が行われる。 (7)消費期限・賞味期限等の設定 平成7年4月に期限表示が導入されたのを受け、各メーカでは、農水省のガイド ラインや民間団体の設定基準を参考に、製品毎に保存試験(官能試験、微生物検査な ど)を行うなどして、賞味期限が設定されている。 (8)量販店等への納入基準 大手量販店などへ納入する生鮮食品や加工食品については、独自にかなり低い菌 数レベル(たとえば103/g)が要求されている場合が多く、メーカまたは受け入れ側で はその基準に合致していることをチェックするための微生物検査が必要となる。   
 (9)その他
以上のほか、加工場の施設や製造ラインなどの日常的な衛生管理のために各種微 生物検査が行われている。